『AIに使われる人 AIを使いこなす人』 

月尾 嘉男/著

公共財団法人モラロジー道徳教育財団/刊

本体1,200円(税別)

AI時代をいかに生きるか

 AIとは、Artificial(人工)+Intelligence(知能)の略語で、AIを初めて知ったのは、『2001年宇宙の旅』(S・キューブリックおよびA・C・クラークの作品)である。木星探査機のコンピュータ「ハル9000」が全てをコントロールし、人間のように乗務員と会話をするが、ある時、人間の矛盾した指令のために反乱を起こすという物語である。このSF映画の公開は1968年で驚くべき先見性であった。

 ところで、著者は、本書で次のような新たな視点を提供する。

 1つ目は、「インフォメーション」の訳語である広義の「情報」という言葉は、報道や報告などのように事実を迅速に伝達する性質である狭義の「情報」、情感や叙情などのように感性を刺激する性質である「情緒」から成る。狭義の「情報」はニュースのスクープのように少数の人間が所有するほど価値を増すが、「情緒」は小説「ハリーポッター」シリーズのように、より多数の人間が共感するほど価値を増す。速さや豊富さを競うAIが奪うことができないものは、情緒を対象とする仕事、物語を創造する仕事で、これは人間の聖域である。

 2つ目は、AI時代の幸福のカギは「創縁」にある。現代は血縁、地縁、職縁を経て、無縁になりつつある。「孤独死」も増えている。無縁にならないためにも、趣味の「遊縁」や、社会奉仕を共通とする「奉縁」など、「創縁」という視点が重要になってくる。

 3つめは、AIがもたらす余裕時間で幸福を増やすことが大切である。ミヒャエル・エンデの『モモ』は、人びとが時間貯蓄銀行に預けた結果、余裕を失い会話も減少し不幸になることを示している。これと同じくネット社会では時間が収奪され「時間貧困」になる危険性がある。情報技術社会の中で自由時間を何に役立てていくかが情報革命を幸せに生きるための重要な視点となる。

 難しいことを易しく語れるのが本物の学者である。月尾嘉男先生は高名な研究者・学者でありながら、中学生や高校生、さらにはAIなどの情報技術が苦手な人にも短い文章で的確に伝えてくれる。また、30以上の先住民族の所に出かけ、AIでは解決できない生き方や課題を紹介している。

 AI時代をいかに生きるかについて、本書からヒントを得て、自ら考え発見してほしいと願っている。

(評・明治学院 前学院長 小暮 修也)

(モルゲンWEB 20231027)

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