塚田 万理奈さん(映画監督)

 中学に上がると学校が好きになった。どちらかといえば、兄や姉で満たされる家庭の空気を嫌ったというのが正確かもしれないが、入学早々、陸上部に入部すると、とにかく一日のできるだけ多くを学校で過ごすようになった。

 競技種目で特に好きだったのは長距離走だ。トラックをひた走る無垢の一人旅は、思春期に荒れ狂う心の海原を静めてくれる。そして唯一、同じ効用を感じるものがもう一つあった。それが映画だった。

 この頃から、ポツポツと一人、映画館に足を運ぶようになる。劇場の座席に潜るように身体をうずめると、少し間を置いてぼんやりと白いスクリーンに夢の世界が踊りだす。

 やがて少女は夢と妄想の狭間に落ちた—―。

 「高校はすごく嫌いでした」

 話がそこに及ぶと、すぐにそう口にした。学校が好きだった中学時代から一転、高校ではまったくと言っていいほど友達ができなかった。入学先の進学校は、当たり前のように偏差値至上主義。教師はおろか、クラスメイトたちも、ひとつでも上の進学を目指して血道を上げる。それにどうしても馴染めない。(難易度に拘らず、好きなところに行けばいいのに……)距離を感じるうちに一人になった。

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