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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

野鳥と私たちの暮らし 第28回 ライチョウ(4)中央アルプスライチョウ復活作戦

何羽を持ってくるか?

 次の課題は、何羽のライチョウを持ってくるかです。新たな集団を作る場合、最初の個体数が多いほど、理想的です。少数からスタートすると、集団の遺伝的多様性が低い集団となり、絶滅しやすいからです。ですが、多くの個体を持ってくると、持ってきた元の集団に影響が出ます。また、成鳥を持ってきた場合には、その影響は大きくなります。

ケージ保護による復活作戦

 これらの問題の解決策として、「ケージ保護」があります。日本のライチョウは、孵化後一ヶ月間の雛の死亡が多く、孵化した時に6羽、7羽いた雛は、一か月後には2羽、3羽に減ってしまいます。その原因は孵化時期の梅雨による悪天候とテンやキツネ等による捕食であることが分かりました。雛が自分で体温維持が可能となり、飛べるようになるまでのヶ月間、人の手で守ってやる方法として考え出されたのが「ケージ保護」です(写真上:孵化の翌日ケージに収容された飛来雌とその6羽の雛。2023年6月29日撮影・写真下:ケージに収容された家族は、日中はケージから出され外で自由に生活します)。

 この方法は、南アルプスの北岳で2015年から実施され、5年後には北岳を含む白根三山のライチョウの数を4倍に増やすことに成功しています。この方法を使えば、そのままにしておいたら死んでしまう雛を人の手で守ってやることで、元の集団に大きな影響を与えず、かつまとまった数のライチョウを移植できます。

 検討の末、北アルプスの乗鞍岳から一ヶ月間ケージ保護した3家族を中央アルプス駒ケ岳にヘリで運び、放鳥することになりました。

 この計画を基に、2020年7月に乗鞍岳でケージ保護した3家族、計19羽(雌親3羽、雛16羽)が8月1日にヘリで乗鞍岳から中央アルプス駒ケ岳に運び、現地の環境に慣らした後に放鳥しました。こうして乗鞍岳からの19羽に2018年の飛来雌1羽を加えた計20羽を基に中央アルプスでの復活事業が開始されました。

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