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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

清々しき人々 第33回 世界を旅行した女流画家 マリアンヌ・ノース(1830−90)

大英帝国を象徴する女性

 「日の沈まぬ国」という表現があります。地球全域に領土を保有し、領土のどこかは日中であるという意味です。現在ではイギリスとフランスが該当しますが、この言葉を体現した史上有名な国家はハノーヴァー朝第六代女王ヴィクトリア(在位一八三七—一九〇一)が君臨した一九世紀前半から二〇世紀初頭までの大英帝国です。その統治を象徴するのは女性が単身で世界を周遊する旅行が可能であったことです。

 それらのイギリスの女性でも有名な人物は一八七八(明治一一)年に日本に到来し、通訳一人のみを同伴して江戸から蝦夷まで旅行して、その旅程を『日本奥地紀行(原題は日本の未踏の旅路)』という書籍として出版したイザベラ・バードですが、それ以上に世界の隅々までという言葉が誇大ではないほど各地を旅行した女性がいました。この日本の明治時代に相当する時期に世界各地を単身で旅行した女性を紹介します。

キューガーデンズにある美術館

 ロンドンの都心から西側一五キロメートルほどのテームズ川沿いに王立植物園(通称キューガーデンズ)があります。一七五九年に王室宮殿付属の施設として開設され、敷地面責が一三二ヘクタールもあります。東京都神代植物公園が五〇ヘクタールですから、その規模が想像できます。ここには大英帝国の威信を象徴するように、世界各地から収集した七〇〇万点の種子植物の標本、一二五万点の菌類の標本が収集されています。

 園内には数多くの施設がありますが、ひときわ目立つ巨大な温帯温室(図1)の背後に「マリアンヌ・ノース・ギャラリー」という煉瓦で構築された目立たないが風格のある建物があります(図2)。ここには一人の女性が大英帝国の領土を中心に世界各地を旅行しながら、それぞれの旅先で植物の生育する自然を描写した絵画八三二点が室内の壁面一杯に展示されています(図3)。その画家が今回紹介するマリアンヌ・ノースです。

図1 温帯温室
図2 マリアンヌ・ノース・ギャラリー
図3 マリアンヌ・ノースの絵画
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