• Memorial Archives
  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

野鳥と私たちの暮らし 第22回 黄色い大きな嘴の鳥 イカル

ゆるく集まって繁殖

 イカルの巣探しをして解かったことがあります。それは、イカルは繁殖期であっても集まって繁殖する傾向があるということです。湿原の周りなどで巣を発見すると、そこから10mほど離れた場所に数個の別の巣を発見することができました。比較的一様な環境であっても、特定の場所に集まって営巣する傾向を持っていたのです。

 多くの鳥は、繁殖期には広いなわばりを持ち、その中で繁殖します。その反対の極にあるのが、カモメ等の海鳥でよく見られる一ヵ所に集まって繁殖し、なわばりとして防衛するのは巣の周りのごく狭い範囲に限られるという繁殖の仕方です。前者をなわばり繁殖、後者をコロニー繁殖といいます。

 この両極端の中間にあたるものを、ルース・コロニー繁殖と呼んでいます。イカルの場合は、このタイプの繁殖形態だったのです。

――――――――――

 現在私の住んでいる長野県の飯綱山の山麓では、年間を通してイカルを見ることができます。「キーコーキー」と鳴く声を聞くと、若いころ鳴き声がする場所をいくら探しても巣が見つからず、巣の発見には苦労したことを、今では懐かしく思い出します。

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(モルゲンWEB 20230311)

関連記事一覧