『本を読むのが苦手な僕はこんなふうに本を読んできた』

横尾 忠則/著

光文社/刊

本体840円(税別)

 読書嫌いと言い張る美術家・横尾忠則さんの初書評集。朝日新聞日曜書評欄に八年間掲載された、「活字が大きくなるべく薄く、易しい言葉で高尚な内容」の活字本・画集・写真集等の百十三冊が、「死・生・今」から始まり「明日への扉」までの二八章に編まれています。読者は好きな章から自由に読むことができます。

 例えば、絵の好きな人は「画家について」の中で「ガガです、ガカの」というタイトルに出会い、えっと思うでしょう。歌手のレディー・ガガではなく、幼児に本名の発音が難しく自らガガと呼んだロシア現代画家の波瀾万丈伝記の紹介です。横尾さんも初めて知った作家名・作品と明かしています。

 また、「黒澤明の遺言」では「家が近いのを理由に黒澤さんの晩年の数年間、時にはアポなしで訪ね、黒澤さんの映画談議に時間を忘れて長居したものだ。」と始まります。あの、世界の映画監督・黒澤さんと横尾さんの映画談議! しかもこんなにさり気ない書き出しでふらっと書評が始まるなんて。正直な横尾さん自身の創作と人生がどの書評にも風味を効かせ、一読後、おー、紹介されたこの本を、やっぱり手に取ってみたいぞと思わせます。横尾さんの死生観・宗教観により、時に現れる難しい言葉もスパイスとして。

 本書は、特に「本を読むのは苦手、でも、見たり聞いたり、不思議な事や、遊び・猫・異世界・物語・創造、そしてアートが大好き」なYAにピッタリ。読みながら、入手したくなった書名に〇を付けて行くだけで、自分の好みが確認でき、世界が遥かに広がります。

(評・自由の森学園図書館司書 大江 輝行)

(月刊MORGEN archives2017)

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