
柳家わさびさん(落語家)
修業時代は万事師匠のペース
国民的バラエティ番組『笑点』――。そのスピンオフ番組『笑点特大号』の演目「若手大喜利」には欠かせない顔がある。柳家わさびさんは、老若男女に分かりやすく工夫された「落語紙芝居」を駆使し、お茶の間に新鮮な風を吹き込んでいる。
落語は語り手から語り手へ遺伝子を受け継ぐもの。ただ演じるのではなく、作品に人間をしみ込ませたい――高みを目指す精神の原動力を訊ねた。
わさびさんが生まれたのは母の郷里、福井県。産後すぐ一家は東京の北千住に居を移し、そこで5歳までを過ごした。その後、住まいが火事にあい沼袋に越すことになるのだが、いまも鮮やかに蘇る幼年期の原風景はこのころからのものだ。
アスレチックが大好きで活発な少年は、力一杯太陽に向けのばす小さな手のひらとは裏腹に、生来の病を抱えていた。心室中隔欠損症――心室を隔てる壁に空いた小さな穴からは、微量だが通常より多くの血が流れ出し、僅かずつではあるが確実に弁に影響を及ぼしてゆく。「5キロ以上走っちゃいけない――」医者にもそう注意されているし、毎年の検査もかかせない。とはいえやはりそこは子ども盛り。心配する両親をよそに、少年は無心で公園のアスレチックに身を投じた。