『食を拒む・食に溺れる心2 生きづらさと依存からの回復』

香山 雪彦/著

思想の科学社/刊

本体2,000円(税別)

教員だけでなく悩める保護者にも

 皆さんは書名からどんな内容を想像されただろう。「摂食障害の症例と対策の本」と思った方が多いのではないか。実は私もその一人である。摂食障害の生徒とはある程度長く教員をやっていれば必ず出会うといっても過言ではない。ただ担任からすると、最終的には養護教諭、カウンセラー、医師の力に頼るところが大きい印象はある。そうした観点で本書を「読まなくてもいいかな」と思うならもったいない話である。もちろん摂食障害についてもわかりやすく解説されていて勉強になるのだが、仮に今そうした症例に興味がなくとも、子供と接する人なら第4章以降だけでも読んでみてほしい。

 摂食障害という言葉が日本で一般化したのは80年代だろうか。時代はかなり飛ぶが、私の専門の古典で拒食症らしき症例といれば恋に思い悩んで食事も喉を通らないという場面くらいしか思いつかないし、過食症に至っては寡聞にして見たことがないのは不思議だった。筆者は摂食障害の根元は地域社会や家族が崩壊した現代社会に流れる「不安」という空気であり、その不安を一番解消しにくいのが思春期の子どもたちなのだと指摘する。確かに現代の子どもたちは物質的に恵まれていても、人類史上最も先の見えない世代である。社会、学校、家族…どこにも完全に安心できる場所のない子どもは多い。筆者は第5・6章でこの不安へのヒントを示してくれており、不登校や引きこもりなどを考えるうえでも示唆に富んでいる。教員だけでなく悩める保護者の方にも薦められる1冊である。

(評・共立女子中学高等学校 教諭 金井 圭太郎)

(月刊MORGEN archives2019)

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