『国境は誰のためにある?—境界地域サハリン・樺太—』

中山 大将/著

清水書院/刊

本体1,000円(税別)

歴史とは何かを深く理解することができる

 日本に住んでいると日常生活の中で国境を意識することは多くない。国境を考えること自体が非日常であり、基礎的基本的な知識を総動員し,想像力と想像力を駆使する知的な営みとなる。

 著者は、生徒や学生にとって国境が身近とは言えないものの、現代社会においてはとても近いところにあることを導入で示し、著者の研究領域である「日本とロシアの間で何度も国境が変わったサハリン島を事例にして、国境は誰のためにあるのか、国境が変わると何が起きるのか」を考え、歴史を学ぶことの意味をも考えることをねらっている。読者は、自ずと歴史とは何かを深く理解することになる。

 研究者の視点から示される冷静な分析に触れることで、読者は歴史への扉が開かれ、国際関係の基礎基本を学ぶ。ウェストファリア・システムから説き起こされ、ネイションとステートの違いが意識され、ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』やアントニー・スミス『ナショナリズムの生命力』など必読書がさりげなくちりばめられ、無理なく本書の核心へと誘われる。

「探究」など論文を書く機会が求められる機会の増える高校生にとって、本書は論文を書く作法も自ずと身につけられる配慮がなされている。すなわち、問題の所在、先行研究の概観、自ら立てた問いに資料や文献を用いながら考察を加え、自分なりの解を示す。議論を始めるときの言葉の定義、議論をするときに領域を限定する重要性も身につけらられる。

 グローバル化にともない、地球規模での思考が必要な私たちにとって必読の一冊である。

(評・東京都立西高等学校 指導教諭 篠田 健一郎)

(月刊MORGEN archives2020)

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