塚田 万理奈さん(映画監督)

 映画学科に入学するほとんどが以前からその方向を見据え、勉強して高い自尊心を具えていた。

「曖昧な地図しか持たない自分は下に見られている……」

 そう思うと、楽しかった学び舎が一気に息苦しくなった。魅力的な同期生たちに囲まれながら、自信を失うばかりに時が流れる。

 やがて卒業制作の時期がやってくると、周囲は次々と待ってましたとばかりにフィルムに全身を叩き付けた。それを見た途端、急激な酸欠を感じ、塚田さんはついに窒息した。

「私には進むべき道も、撮りたい映画も、誇るべき知識も何もない――」

 気付いた時には拒食症になっていた。拒食症は思いのほか重かった。母は、はじめ混乱して泣き、父は困惑の色を見せた。塚田さんは就職活動の中断を余儀なくされる。

 崩れそうになる体を支えて大学に向かうと、

「自分には何一つ誇れるところがない。何も撮るものがない」

 恩師にそう訴えた。泣きじゃくる教え子に「じゃあ何もない自分を撮ればいい。何にも格好つけずにありのままを。それが君なんだから」含めるように話す師の言葉は、痛んだ心にただ静かに浸み込んだ。

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