• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

上田 岳弘さん(作家)

小説家を目指されたのはいつごろ

 幼稚園のときです。だから4歳、5歳……、くらいのときですね。なぜ小説家なのかというのは自分でも憶えていませんね。ただ案外、影響を受けやすい方なんで、その後も結構色々な職業に目移りはしました。テレビで弁護士のドラマを見れば「弁護士になろう」と夢を膨らませるし、医者のドラマが流行れば「医者もいいな」と宙を見上げて。でも、最終的に残ったのはやっぱり小説家だった。

中学時代はどんな読書を

 最初はとにかくファンタジー小説に夢中で。ページをめくる手がおいつかないくらい夢中で読んでいた。そんなある日、姉がどこからか一冊の本を持ってきたんです。それが村上春樹さんの本だった。そこから、また新たな読書の地平を拓いていって。村上さんの本はよく「難解」と言われるけど、文章自体は平易なので読むのは全然苦痛じゃなかった。中学生だった僕にどれだけ理解できていたかは分からないけど、とにかく全身で向き合って。それでどんどん純文学に傾倒していった。

高校時代の一番の思い出は

 今もそうなんですが僕はすごく散歩が好きで。とにかく色んなところを歩くんですよ。「総合選抜」という高校受験のないような立場だったこともあって、僕には長いモラトリアム期があったんです。特に中・高生時代は、たっぷりと思索にふけりながら散歩を繰り返して。そのとき考えていた内容は本当に茫洋で愚にもつかないようなことだったけど、その頃のことが一番印象に残っています。

大学は早稲田の法学部に

 作家を目指していましたから、僕としては当然、文学部に行きたいわけです。ところが、それまで放任一辺倒だった両親がここにきて突然反対した。「文学部に行きたい」という僕に、「文学がやりたいなら自分で出来るでしょ」と言うんですね。「小説を書きたいなら、自分で好きに書けばいい。大学には実学を学びに行け」――そんな言い分でしたね。

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