『津波がくるぞ! 元禄十六年・千葉県沿岸の津波被害』

畑中 雅子/著

国書刊行会/刊

本体1,200円(税別)

衝撃的な体験が記録を残して

 後世に向けて情報を送る側とそれを受け取る側、両者がいてこそ歴史は紡がれていく。

 本書の題材は、一七〇三年(元禄一六年)に起こった元禄地震による津波被害である。関東地方に多大な被害を発生させた元禄地震。それによって生まれた津波が、千葉県沿岸部にどのような被害をもたらしたか。筆者は各地を丹念にめぐり、当時の状況を記したさまざまな史料に触れて被害の実態を明らかにしていく。古文書の引用が多いが、やさしく噛み砕いた現代語訳や解説がついているので読みやすく、当時の人々の苦労をイメージしやすい。

 伝わる被害内容はすさまじい。千葉県の津波被害といえば東日本大震災の時のものが記憶に新しいが、それを遥かに超える規模の犠牲者が出たようだ。「元禄当時の人口は現在よりずっと少なかったのですから、当時の人々の受けたショックは私達の想像を遥かに超える大きなものだったでしょう。」(「はじめに」より)と著者が述べる通り、計り知れない衝撃を与えたはずである。

 そうした衝撃的な体験をした人々がさまざまな形で記録を残してくれたからこそ、私たちはその事実を知ることができる。かつて何が起こったのかを知り、再び起こった場合に備えて対策を立てることができる。そうした価値ある過去の記憶を、著者は誰もが読みやすい形にまとめてくれた。著者は過去の記憶の受け手であり、それをさらに多くの人へと届ける送り手の役割も果たしている。

 私たちは良い受け手であると同時に、良い送り手であるよう努めなければならない。そんなことを改めて感じさせてくれる本だ。

(評・東海大学附属浦安高等学校 図書館担当教諭 加藤 大地)

(月刊MORGEN archive2015)

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