岡村幸宣さん(原爆の図丸木美術館 学芸員)

コロナの影響はどんな形で

 もう真っ先に自粛の対象に差し出されたというか(笑い)。経済活動に影響がないと思われたんでしょうね。でも、丸木美術館というのは館名に作品名が入っているくらい、本当に絵のために作られた場所なんです。『原爆の図』をいつでも見られるように扉を開いておくのは、社会的意義から見ても重要だと思っていて。

 それでも今回は本当に想定外の出来事でした。自粛要請にしても、現政権の政策に対する批判はもちろんあるんだけど、それだけで片付けられない問題があった。抵抗して開き続けることも出来るんだけど、それが果たして正しいことなのかの判断が自分達ではできない。命を大切にする美術館を開くことが命を奪うことになるかもしれない……、そんなジレンマにすっかり陥ってしまって。結果として、2カ月間、美術館を休館するという重い決断を下すことになりました。

休館の間どんな思いを

 経営のこととか、本当、色々考えさせられましたね。このコロナ禍は、本当に沢山の方から寄付を頂いた。でも、実は当初、寄付を募ろうとはあまり考えていなかったんです。休館を聞きつけた地元の新聞社さんが心配して取材に来てくれた。その記事が拡散して、次第に寄付が集まり始めた。ただ、そのときはまだ受け皿がなかったので、前からあった美術館建て替えの寄付にどんどんと押し寄せる。それで慌てて専用の口座を開設した。

 で、一度動き出すと今はネット社会です。そこから今度は世界中に広がっていった。奇しくも、ネット入金システムをこの四月に立ち上げたばかりで、それが早速活用された形です。海外からの入金も相次いだ。印象的だったのは、寄付をするのは、必ずしもここに来れるわけじゃない、この先も来られる保証もない人たちということだった。自分は来れないんだけど丸木美術館には存続して欲しい、そこにあり続けて欲しいという思いを強く感じた。普通、寄付は何か見返りを求めがちなんです。自分がそこに行きたい、参加したいというのが大抵ある。でもどうもこの美術館はそれだけじゃない。自分以外の、例えば未来の人たちのために支えたい……、そういう方々が凄く多いんですね。

 いつも本当に多くの寄付で成り立っている美術館なんだけど、それは常にギリギリで。とにかく一人でも多くの入館者を、という考えでそれまでやってきた。企画展や講演会を可能な限り増やし、その甲斐あって、ここ数年は、千人単位の来館者の増加があった。それでもやっぱりキツいのは変わらない。3千人くらい来館者が増えたからといって、それで経営が安定するわけじゃないんです。疲弊する職員を横目に、これは持続可能だろうかと悩む日々だった。

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