• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

梅沢富美男さん(俳優)

その頃の将来の夢は

 子ども心にも「役者にだけは絶対ならない」と決めていましたね。グウグウ鳴るお腹を抱えて校庭をウロウロしながら、「どんなことがあっても役者にはならない――」それだけずっと思ってました。

 じゃあ何になりたいかと言われれば、何にも思いつかないし考える余裕もなかったけど、とにかく親父のところに行くのだけはやめようと。そんなわけで小学校3年からは一切親元には行きませんでしたね。

その後、お兄さんに引き取られますね

 僕が小学校4年生のときに「金へんブーム」というのがあってね。鉄クズが凄く高値で売れたんです。都合よく、近所には自動車の修理工場があって、そこに行くと自動車のエンジンが置いてあった。昔のエンジンは今より随分大きくて、それをひとつ持って行けば500円にもなるんです。

 昔の500円と言えば大金ですから、それをせっせと盗みに行くわけです。近所のお兄ちゃんたちが音頭を取って、貧しい子たちを集めてやるんだけど、まあ今でいうボランティアみたいなもんですよ(笑)。

 その日も夜になって、「おい鉄クズ取りに行こう」の声を合図に動き出した。でも今思い返して、やっぱり子どもだなあと思うのは、一つならなんとか持って帰れるのに、二つも袋に入れたもんだから引きずったんですよ。

 それで、すぐに見つかって捕まってね。殴られて事務所に引っ立てられ、「こいつら警察に突き出そう。ロクなことになんねえから」なんて言われていると、奥から工場長の奥さんが出てきて「やめなさい」と声をかけた。

「こんなちっちゃい子、どうせ唆されたんだろうから勘弁してあげなさい」そう言って傍に寄り、「いい? 人様のものを盗むっていうのはね……」と説教をはじめようとした次の瞬間、驚いた顔で「トンちゃん?」って呼ぶんですよ。

「トンちゃん」というのは、僕の子役のときの呼び名で、その女将さんはウチの元劇団員だったんです。その人がウチに「名子役のトンちゃんが酷い有様ですよ」と電話をかけてくれて、それで兄貴が迎えに来たんです。

 で、その後結局役者になっちゃうんだけど……、やっぱり血が騒いじゃったのかなぁ(笑)。一度、舞台に遊びに行ったとき、お客さんの前に出たらウケちゃってね。それで、あ、オレ役者やってみようって。

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