野鳥と私たちの暮らし 第9回 『人の生活に密着し、したたかに生きる鷹 トビ』

最も身近な鷹

 トビは「とんび」とも言われて親しまれており、日本では最も身近な鷹といってよいでしょう。体重は1Kgほど、翼を広げると150~160㎝にもなる大型の鷹です(写真上・翼を広げて旋回するトビ)。最近では都市部にも進出し、ほぼ全国に周年生息しています。ほとんど羽ばたかずに尾羽で巧みに舵をとり、上昇気流を利用して輪を描いて飛び、「ピーヒョロロー」と独特な声で鳴きます。「飛べ飛べとんび、空高く」ではじまる文部省唱歌の『とんび』や「とんびがくるりと輪を描いた」と歌われる三橋美智也の『夕焼けとんび』は、年配の方には懐かしい思い出の歌です。

優れた視覚

 トビが輪を描いて上空を飛んでいるのは、地上にいる餌を探しているのです。このトビがいかに優れた視力を持っているかに驚かされた子供の頃の体験があります。家で飼っていたウサギが子供を産み、その直後にそのうちの1頭が死にました。まだ、目も開かず、毛も生えていない赤子で、庭先の畑に捨てられました。その捨てられた子供が、舞い降りてきた大きな鳥によって目の前でさっと持ち去られたのです。一緒に目撃した母親が、「とんび」と叫びました。ウサギの赤子は数センチの大きさです。それを上空から見つけたのです。この鳥がいかに目が良いかを母親がしきりに感心していたのを今でも覚えています。

自然界の掃除屋

 トビは猛禽類の鷹ですが、他の鷹とはいくつかの点で異なっています。多くの鷹は生きた獲物を捕らえて食べるのですが、トビは動物の死体を好んで食べます。道路で車の事故にあったタヌキやネコを目ざとく見つけ、最初に集まってくるのはハシブトガラスなどのカラスですが、トビも集まって来て、死体を持ち去ります。

 大学を退職した現在では、ライチョウの調査と保護のために高山で過ごすことが多いのですが、人の生活圏だけでなく高山にもトビが集まることを最近になって知りました。4月末から5月の初めは、冬を温かい南国で過ごし日本に戻ってくる夏鳥、逆に冬を日本で過ごし北に帰る冬鳥の渡りの最盛期です。これらの小鳥の多くは、夜に渡りをするので、アルプスを超える時に吹雪に会い、死亡することが時々起こります。新雪の上には、キビタキ、オオルリ、マヒワなどの死体が多数見つかります。それらの死体を目当てに、この時期に限り多くのトビが下界から高山に上がってきていたのです。

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