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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

野鳥と私たちの暮らし 第11回 雷シギとも呼ばれる オオジシギ

誇示飛翔するのは雄

 電波を頼りに日中に追跡した調査からは、各個体が地上で行動する範囲が明らかにできました。大谷地湿原に最初に棲みついた3羽の行動範囲はほぼ重なっていませんでしたが、3番目と4番目の範囲は大きく重なり、地上の行動範囲は排他的ではありませんでした。

 巣は2年目と3年目にそれぞれに1つ発見しましたが、驚いたことに2巣はいずれも誇示飛翔が見られた地域の外にありました。4卵を産み終えた日から抱卵が開始され、2時間ほど卵を温め、20分間ほど採食をすることを繰り返していました。抱卵していたのは1羽で、その個体は鳴くことも、誇示飛翔もしませんでしたので雌と判断されました。また、捕獲した5羽は、いずれも腹部の羽が抜けた抱卵斑がなかったことから、誇示飛翔をするのは雄であることがわかりました。

 以上3年間にわたる調査から、オオジシギの雄は特定の地域に集まって集団で誇示行動を行い、雌は交尾後そこから離れた場所で単独で子育てをする鳥では珍しいレックと呼ばれる繁殖様式であるという結論に至り、その結果を論文として発表しました。

 このオオジシギの研究は、私がまだ若く純粋に鳥の研究に打ち込んでいた頃の研究の一つです。私が最初に見た戸隠高原と調査した飯綱高原からは、最近では姿が見られなくなり、全国的にもこの鳥は減少傾向にあります。この鳥のように個性的な日本の鳥ほど現在減少傾向にあることを、私は大変残念に思っています。

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(モルゲンWEB)

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