「わたしのマンスリー日記」第8回 最強にして最速の編集者

生みの苦しみ

 『全国水害地名をゆく』(インターナショナル新書)という本を上梓しました。毎年この時期になると、各地から集中豪雨による水害の被害のニュースが飛び込んできます。これからが本格的な台風シーズン、予断を許しません。さらに今年は関東大震災100年の記念の年。防災意識の高揚が求められています。その時期にタイミングを合わせて書いたのが本書です。

 しかし、今回ほど生みの苦しみを味わったことはありません。どんな苦しみの中で本書を書き上げたか、そしてその執筆を助けてくれた最強にして最速の編集者の物語です。

競りにかけた企画

 本書は毎日新聞デジタルに連載してきた「水害と地名の深~い関係」を書籍化したものですが、最初の難関はどの出版社にお願いするかでした。私は2019年5月にALSを宣告されて以降、次の4冊を世に問うてきました。

『ALSを生きる いつでも夢を追いかけていた』(東京書籍、2020年)
『日本列島 地名の謎を解く』(東京書籍、2021年)
『夢はつながる できることは必ずある!-ALSに勝つ!』(東京書籍、2022年)
『重ね地図でたどる京都1000年の歴史散歩』(宝島社、2023年)

 最後の京都本は監修ですが、前の3冊は単著でいずれも出版社は東京書籍でした。東京書籍は我が国最大手の教科書会社で、私は教科書編集以外にも様々な面でかかわりを持ってきた会社でした。当然今回も東京書籍にお願いするという線も考えられたのですが、私には強いためらいがありました。この内容は教科書会社には向いていないと考えたのが最大の理由でしたが、これ以上東京書籍に迷惑はかけられないという思いもありました。

 そこで出版社選定に関してはゼロに戻して、まず原稿を整えてそれに出版企画書を添えて関係出版社に送付して出版の可能性を探る作戦に切り替えました。いわば魚市場の競りにかけるようなもので、ひょっとしたらどこからも手が挙がらないこともあり得るのです。これを出版企画の「持ち込み」と呼んでいますが、長い執筆キャリアの中でこのような持ち込みにチャレンジしたのは初めてでした。

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