• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

羽田 圭介さん(小説家)

自転車に夢中だったとか

 中学2年の頃ですね。マウンテンバイクを買ったんです。初めてのキャンプツーリングは中学3年の時。家出同然で飛び出しました。そこからちょくちょく、休みになると友人とツーリン
グに出かけるようになりました。

当時、小説執筆に興味は

 ちょうどそのころ、隣の市に新しい図書館ができたんです。図書館は近代的な照明、空調が完備されていて、塗料や金属の心地よい香りがして。なにより初めて体験するバーコード式の図書館です。それまでのカビ臭くて薄暗いイメージを一新するその建物にすっかり夢中になって、夏の間中、空調の効いた明るい空間を満喫していました。

 あるとき、ふと、そういえばここにはどんな本があるんだろう……、と席を立って。で、通りがかった「ハウツー本」のコーナーで「小説家になるための本」に出会ったんです。

 衝撃でしたね。小説って書く側にもなれるんだ!  ってね。それまで、じんわりと胸にあった小説家への憧れが目標に変わった瞬間でした。

高校で文藝賞を取られます

 高校1年の冬に綿矢りささんが文藝賞を受賞したという記事を偶然広告で見つけて。

 自分のほんの2個上の人が受賞したという事実に驚きを受けました。同時に抑えようのない焦りを感じて、中学2年の夏から猛然と小説を書き始めた。自分も文藝賞のような純文学の賞に応募しようと決意して、各文学賞の新人賞のバックナンバーも3年分くらいは読みました。

 自分としては傾向と対策のつもりでしたが、それでうまくいったかどうかは分かりません。しかしとにかく、応募した最初の作品で文藝賞を取る事ができました。

受賞時の気持ちは

 当時から書き手は、ある程度冷静であるべきだ、という考えを持っていたんです。熱にうかされるように書きながらも、一方で編集者のような客観性を持たなければならないと。実際、それまでも原稿用紙100枚を超える修作が二つありましたが、自分で没にしていて。受賞作は、初めて〝これはいける″と判断して送り出した作品だった。賞を取って自信が確信に変わった感じです。

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