清々しき人々 第21回 世界で最初に人工雪を実現した中谷宇吉郎

恩師は寺田寅彦

「雪は天から送られた手紙である」という言葉は詩人の名言のようですが、生涯「雪」の研究に没頭し、世界で最初に人工雪を生成することに成功した日本の著名な物理学者・中谷宇吉郎の言葉です。中谷は世紀が転換する直前の一九〇〇(明治三三)年に、温泉で有名な石川県片山津町(現在は加賀市)に誕生しましたが、学齢になって母方の親戚のある隣町の大聖寺町に転居し、地元の小学校と中学校を卒業しました。

 さらに現在の金沢大学の前身の第四高等学校に入学、一九二二年に東京帝国大学理学部物理学科に進学しますが、指導教官は寺田寅彦でした(図1)。寺田は一八七八年に東京で誕生、熊本の第五高等学校に入学しますが、そのときの英語教師が夏目漱石でした。それ以後、東京帝国大学理科大学で田中館愛橘や長岡半太郎など著名な学者に指導され、首席で卒業して講師に就任、中谷が出会った時期には教授に昇格していました。

図1 寺田寅彦(1759-1829)

 寺田の基本は物理学者でX線の結晶透過の研究などで業績がありますが、博士論文は「尺八の音響学的研究」であり、「金平糖の角の研究」「ひび割れの研究」など統計力学を応用した研究でも成果があり、関東大震災が発生した直後には広範に火災が拡大した原因の分析など、興味のある対象を自由自在に選択して研究していました。さらに漱石の影響もあって、生涯に数一〇冊にもなる随筆を執筆しています。

 中谷も寺田の指導で放電現象やX線解析などの実験物理を研究し、一九二五年に卒業してからは寺田が兼務していた国立の研究機関である理化学研究所の研究室員として勤務します。一九二八年からはイギリスの国立大学キングス・カレッジ・ロンドンに留学しますが、その留学期間に前年に結婚したばかりの夫人がジフテリアで死亡する悲劇に遭遇することになります。新婚から一年も経過していない時期でした。

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