『「いのち」の重み小児科医と臨床宗教師が語る「心の処方箋」』

細谷亮太・大下大圓/著

佼成出版社/刊

本体1,400円(税別)

すべての物事に謙虚で生かされている気持ちの大切さ

 熊本地震の被災状況に心を痛め、誰の身にも起こりうる災害の恐ろしさを感じる日々の中で、この本に出会った。住職・臨床宗教師の大下大圓さんと、小児がん医療の第一人者である細谷亮太さんの対談集である。お二人とも、病気で死を前にした方々や立ち直れないほどの心の痛みを抱えた方々の心に寄り添ってこられた。

 二十年以上前からお互いの活動に注目していたというお二人の会話を読んでいると、生き方の根っこの部分が同じであると感じた。すべての物事に対する謙虚さ・生かされているという気持ちが大切であるとお二人は語る。大下さんは仏教の専門家だが、「布教を目的とせず目の前で苦しむ方に寄り添い心のケアをする」臨床宗教師でもある。チャペルがある聖路加国際病院に勤める細谷さんも、お遍路に行くなど仏教への関心が深い。お二人とも様々な宗教に対して理解と敬意を持ち、宗教が生きる中で苦境に立たされた方々を癒す〝縁(よすが)〟となってくれればと願われているのだと思う。

 そしてお二人とも、人のために行なったことが自分の喜びになると語る、現場第一主義でもある。細谷さんは病気の子供やそのご家族とのふれあいをとても大切にし、病院以外の場で難病の子供たちの支援もされている。大下さんも被災地に積極的に赴き、足湯をしながら現地の方々が気軽に話せる場をつくる活動などを行っておられる。

 人は大きな心の傷を負っても、話して人に聴いてもらうことで、時間はかかるが大きなストレスが少しずつ癒されていくこともあるという。人が回復する力・心を強く持つ力・そして人に寄り添って聴くことが癒しとなることを信じていきたい。

(評・京都府立大江高等学校 学校図書館司書 河内 圭子)

(月刊MORGEN archives2016)

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