『日本語を味わう名詩入門』(全20巻)

作品を通し一番伝えたいことは

 教育者・研究者として常々、現代の小中高校生はどこか感性が欠けている、と考えてきました。よくよく教育の現場に目を凝らすと、どうも小学校の科目過多なカリキュラムに原因があるのではないか、と思い当たりました。

 良質な解説本も多くないことから、他の科目に圧迫され、兎角、詩歌は軽く扱われがちです。僕は、長らく、この現況に警鐘を鳴らし続けています。というのも、小中学生の児童には、実は詩が嫌いじゃない、寧ろ好きだ、という子どもが多いんですよ。生来、子供たちが持っている感性の受け皿を教育環境が拒んでいるわけで、これは大変な機会の損失です。

 宮沢賢治は「アドレッセンス 中葉」(大人の常識や規範に毒される以前の思春期の心)という言葉を使い、詩や童話を書きました。″純粋なその時期に読むべきは、小説ではなく、詩、或いは童話である″そういう信念を胸に、小説ではなく童話という形を選んだのです。自分の心が悦び、動かされたものだけを心象スケッチする作風に辿りついたんですね。自分が感動しなければ、他人を感動させるなど到底できない、そう考えたんだと思います。

 この賢治の考え方は、僕の中にも絶対的な指標としてあって、どの作品を解説するにも、感動するまで読み込みます。簡単なことではありませんが、そうして心を動かされて書いたものは、読者を選ばないんですよ。本シリーズを読み、詩を理解することを通して、子供たちに、あるいは大人の方にも、感受性を育ててほしい、そんな風に考えています。

はぎわら まさよし 1939年神奈川県生まれ。東京教育大学、同大学院を卒業後、埼玉大学教授、十文字女子大学教授を経て、現在に至る。著書に『宮沢賢治「銀河鉄道」への旅』(河出書房新社)、『宮沢賢治「修羅」への旅』(朝文社)など。宮沢賢治学会イーハトーブセンター会員。

(月刊MORGEN archives2014)

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