「わたしのマンスリー日記」 第3回 「壁のないコンサート」

 素晴らしい表現力! 「利他の精神」という言葉で私の問いの答えが見えてきました。無言のままバケツの中に1万円札を入れてくれた来場者の顔を思い浮かべました。今思い起こすとバケツ隊に寄ってくださった皆さんの表情にはある共通点があったことに気づきました。それを言葉で表現することは難しいのですが、「震災から一日も早く立ち直って元気を取り戻してほしい」という思い・祈りともいうべきものでした。言い換えれば「利他の精神」です。

「利他」とは他人(ひと)のために力を尽くすことです。来場者の表情には例外なくこの「利他の精神(思い・心)」がにじんでいました。この利他の思いはアーティストを含めた千数百人のコンサート関係者・参加者に共有されていたはずです。こう考えてきて私の問いはようやく解けました。

 あのチャリティーコンサートでは舞台上で演ずるアーティストと私たち聴衆の間には「壁」がなかったのです。さらに聴衆一人ひとりの間にも「壁」はありませんでした。だから舞台からの音楽がストレートに「チカラ」となって私たちの魂を揺り動かしたのでしょう。その時サントリーホールは確かに「利他ホール」に変身したのです。

 私ども大学人がやっている講演との違いも見えてきました。私どもの場合は壁だらけなのです。講演の趣旨に同調しない聴衆がいるのは当たり前ですし、その他日常的に学閥や政治閥など様々な壁に取り囲まれてがんじがらめに縛られているのが現実なのです。

苦しみの連帯

 湯川れい子さんがチャリティーコンサートの案内に「コロナ禍でも、いえ、コロナ禍だからこそ、生演奏と生の歌声に力を貰います」と書いていましたが、その言葉をお借りすれば「ALSでも、いえ、ALSだからこそ、チャリティーコンサートに参加しました」と言えるでしょう。

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