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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

野鳥と私たちの暮らし 第24回 身近な里の鳥 ホオジロ

鳥の繁殖生態の研究

 以上がホオジロの子育ての概要ですが、鳥は種類によって繁殖の仕方は実に多様です。その多様性は、種類によって姿、形が異なるのと同様に、長い進化の過程で確立された適応的なものです。 

 私の恩師の信州大学の故羽田健三先生は、研究室の学生一人一人にそれぞれ1種類の鳥を分担し、それぞれの種類の鳥の繁殖生態を卒論テーマとして研究させました。私は学生の時にカワラヒワの繁殖生態をテーマに研究しましたが、羽田先生が退官される頃には40種類ほどの鳥の調査を終え、身近な鳥の調査はほぼ終わっていました。私の代になると生息数の少ない貴重な鳥や夜行性のフウロウの仲間、警戒心の強い猛禽類など、調査の難しい鳥ばかりが残されましたが、それらの鳥を含め、私が退官する頃には、長野県に生息するほとんどの種類の鳥の調査が終わり、鳥の繁殖生態の多様性が明らかにされました。

 4月から5月、6月は、多くの鳥の繁殖時期です。私たちの住む同じ場所にも多くの鳥が繁殖し、私たちと同じようにそこで子育てをしています。今回のホオジロも私の家の庭木に巣を造り、繁殖したことがあります。身近で子育てする鳥を観察する機会に恵まれたなら、きっと人間中心の考えから一歩引きさがった見方に変わることでしょう。

脚注:写真上・下ともに茨城県那珂市在住宮本奈央子氏撮影

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(モルゲンWEB 20230510)

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