『チェルノブイリの祈り 未来の物語』

スベトラーナ・アレクシェービッチ/著 松本 妙子/訳

岩波書店/刊

本体1,040円(税別)

一話ごとの証言がドキュメンタリー写真のような迫力

 作者のスベトラーナ・アレクシェービッチの名前を知ったのは二〇一五年のノーベル文学賞受賞のニュースだった。その受賞作の表題にまずひきつけられた。福島原発事故後のフクシマの人々を写真で追っている私にとって、一九八六年四月二六日午前一時二三分に起きたチェルノブイリ原発事故のその後の詳細をまず知りたかったのと同時に「未来の物語」という副題が気になった。「未来」とはもしかして「フクシマ」のことかもしれないと思ったのだ。

「なにをお話すればいいのかわかりません。死について、それとも愛について?・・」で始まる冒頭の消防士の妻・リュドミーラの独白は、余すところなくチェルノブイリの惨状を語り、愛する夫を奪った核災害を断罪している。

 作者は、お年寄りから子どもたちまで約三百人からその体験を聞き取ったそうだ。それらの証言を文学として再現させるという新しいジャンルを切り開いた。文学とドキュメンタリーの融合である。

 どの証言からも核災害下での人の生きる意味や苦悩、核物質によって汚された大地の悲鳴がきこえてくる。作者の持つ高い見識と核への警鐘が証言者それぞれの見事な語り口を通して伝わってくる。翻訳者松本さんの力に負うところも大きいと思う。

 何度も読み返しながら、一話ごとの証言がまるで一枚ずつの優れたドキュメンタリー写真をみるかのように感じられた。そして、今後のフクシマ取材へ向けて真摯な取り組みをわが身に誓った次第である。中・高校生にぜひ読んでもらいたいし、担任や図書館司書の先生方による読み聞かせも期待したい。それによって「未来の物語」が「フクシマの物語」であることが鮮明になると思う。

(評・写真家 菊池 和子)

(月刊MORGEN archives2016)

関連記事一覧