『大人のための社会科―未来を語るために』

井手 英策、宇野 重規、坂井 豊貴、松沢 裕作/著

有斐閣/刊

本体1,500円(税別)

希望を灯す唯一の方法は

 長い間、絶望のなかに生きている。この日本社会の闇の深さ。閉塞した社会。絶望の先には希望がある、とうそぶいてみても光は見えない。社会が悪いのだ、と責任を転嫁しても朝はやってこない。寝苦しい夜の連続。

 科学が進歩し、便利な社会になったのに、幸福はやってこない。効率の良い社会になったのに、孤立化は進む。なぜか。専門家が自分の住みかに龍もり、専門分野を追求することに満足しているからだと、四人の男は言う。が、その言葉は感情的、例えばアジ演説のようなものではない。静かな言葉の持つエネルギーをあらためて認識してしまうような、客観的な物言いである。エネルギーの源泉が、思考停止に陥っている社会に「知」を取り戻すという明確で純粋な目標があるからだ。

 四人は、社会科学者であるが専門分野はそれぞれ異なっている。その四人が話し合いを重ねて導き出されたのが、希望を灯す方法である。しかし実践するためには条件が付く。学ぶ喜びを共有すること。生徒になって、開かれた知性を獲得し、立場を超えて対話を重ねること。

 初めてドイッ語に接したときの感動。詩の韻律に陶然とした体験。未知なる世界を獲得し、または自分の世界を獲得してもらうこととは、「学ぶ喜び」に外ならない。この世界に誕生した瞬間、誰もが産声をあげる。世界に対する言挙げである。

 対話は、この産声に龍もる存在と存在を結びつける喜びの確認から始まる。

(評・福島県スクールカウンセラー 立花 正人)

(月刊MORGEN archives2017)

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