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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

清々しき人々 第1回 ウーマンリブ運動を先導した ベティ・フリーダン(1921-2006) 

全米に影響した活動 

 その活動が世界から注目されたのが、アメリカでの女性参政権獲得五〇周年を記念して一九七〇年八月二六日に実行された「平等を目指す女性たちのストライキ」でした。ニューヨークの五番街でフリーダンを先頭に数万の女性が行進し、「今夜は夕食を用意しない」「ストライキの熱気があるうちはアイロンをかけるな」などと唱和しました。最後はブライアント公園に結集し、フリーダンをはじめNOWの幹部が演説をして解散しました(図6)。

図6 ニューヨークの行進のポスター(1970.8.26)

 

 そのときのフリーダンの演説の要旨を紹介します。「各地から参加した女性は現在の社会で見逃されている問題を指摘している。それは男女平等の権利の確保、子供の養育の制度、堕胎を禁止する法律などであるが、そのためには料理を放棄する、伴侶と対話する、デモ行進により意思を表明する、法律を成立させるために国会議員に要求するなどが必要である。全員が同一の手段を実行する必要はなく、各人が独自の方法で意見を表明すべきである」

 さらに同年、NOWはニクソン大統領が指名した連邦最高裁判所の判事候補が人種差別や女性蔑視の発言の過去があるという理由で就任に反対して候補名簿から削除することに成功し、翌年の一九七一年には全米から三二〇人の女性が首都ワシントンに集結し、女性が公職に選任されることを推進するための全米女性政治連盟を結成するなど活躍します。さらに男女平等憲法修正条項が議会で可決されるための運動も展開しています。

時代が先行した晩年

 しかし、社会はフリーダンの当初の理念以上に急速に変化し、母性尊重を否定する急進思想のフェミニスト、同性愛者のフェミニスト、セックスにおける両性対等を主張するフェミニストなどが登場し、すでに初老の年齢になったフリーダンの思想とは相容れない運動が活発になってきました。そこで一九八一年に『セカンド・ステージ』を出版し、家族の再建を提起したため、急進思想のフェミニストや同性愛者から批判されるようになります。

 さらにフリーダンは中産階級の白人女性を対象に改革運動を推進してきましたが、それは第二波フェミニズムの主題ではあったものの、社会はLGBTという言葉が象徴する様々な人間関係への理解を要求する時代に移行してしまい、フリーダンの従来の思想では対応できない時代に突入するようになります。そこで一九九七年に『ビヨンド・ジェンダー』を出版しますが、急速な意識の変化には十分に対応できない内容でした。

 さらに情報通信技術の急速な発展と普及によって、仕事の形態にもジョブ・シェアリングやフレックス・タイムなど、フリーダンが問題を提起しはじめた時代の社会構造は大幅に変化してしまい、一九五〇年代には革新であったフリーダンの思想や行動は現代では保守になっています。幸運か残念かは微妙ですが、フリーダンは二〇〇六年に八五歳で死去しており、社会における男女の関係を方向転換させた偉大な女性であることは確実です。

 フリーダンの人生を冷徹に回顧すれば、自分が点火した革命が急速に進行し、人生の後半では社会が先行していった印象もあります。しかし、その真髄は彼女の以下の言葉に集約されています。

「女性も社会から影響されるだけではなく、社会に影響することができ、最後は男性と同様、自分で自分の人生を決定することができ、生活を幸福にすることも不幸にすることもできる」  これは男女に関係なく通用する人生の真実です。 

つきお よしお 1942年名古屋生まれ。1965年東京大学部工学部卒業。工学博士。名古屋大学教授、東京大学教授などを経て東京大学名誉教授。2002、03年総務省総務審議官。これまでコンピュータ・グラフィックス、人工知能、仮想現実、メディア政策などを研究。全国各地でカヌーとクロスカントリーをしながら、知床半島塾、羊蹄山麓塾、釧路湿原塾、白馬仰山塾、宮川清流塾、瀬戸内海塾などを主催し、地域の有志とともに環境保護や地域計画に取り組む。主要著書に『日本 百年の転換戦略』(講談社)、『縮小文明の展望』(東京大学出版会)、『地球共生』(講談社)、『地球の救い方』、『水の話』(遊行社)、『100年先を読む』(モラロジー研究所)、『先住民族の叡智』(遊行社)、『誰も言わなかった!本当は怖いビッグデータとサイバー戦争のカラクリ』(アスコム)、『日本が世界地図から消滅しないための戦略』(致知出版社)、『幸福実感社会への転進』(モラロジー研究所)、『転換日本 地域創成の展望』(東京大学出版会)など。最新刊は『凛々たる人生』(遊行社)。

(月刊MORGEN archives2021)

 

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