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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

野鳥と私たちの暮らし 第1回 ムクドリ

 私のとった作戦は、ムクドリが最も怖がるものを使い、市街地は安全な塒場所ではないことを教えたのです。彼らが恐れるのは、日中はオオタカなどのタカ類、夜間は夜行性のフクロウといった猛禽類です。大学の研究室にあったクマタカ、オオタカ、ハヤブサ、さらにフウロウの剥製をヒマラヤスギの目立つ場所に設置しました。夕方集まってきたムクドリの群れは、塒場所の安全を確かめるため、大群で上空を旋回する習性があります。群れが旋回を始めた絶妙なタイミングを計り、私の合図で校庭の拡声器からこれら猛禽の声を一声流したのです。ムクドリはこの声で猛禽の存在を知り、下を見ると猛禽がいることに気付くことになりました。

 この作戦は、予想以上の効果があり、旋回は大きく乱れ、この段階で塒をとるのを諦めさせる効果が十分ありました。翌日集まったムクドリの数は十分の一に減り、さらにその翌日にはその十分の一になり、塒を郊外に移したのです。

共存のための棲み分け

 野生動物と人との関係はどうあるべきか、改めて考えてみる必要がります。今回の問題が示すように、市街地に人と野生動物が一緒に住むことはできません。以前のようにムクドリは郊外の森に戻り、人とは棲み分ける関係を取り戻すことが必要です。それには、人と野生動物とは、一定の緊張関係を取り戻すことが不可欠です。野生動物はペットとは異なります。行き過ぎた動物愛護は、自然のバランスを崩し、様々な問題を引き起こすからです。

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(モルゲンWEB)

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