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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

清々しき人々 第3回 火星の観測に熱中した富豪 P・ローウェル(1855-1916)

惑星Xの予測に成功

 ローウェルは毎晩のように火星を観察してスケッチをしますが、当時としては巨大な口径のレンズを装備した望遠鏡でも地球の大気のゆらぎの影響で火星表面の細部の模様を観測するのには限界があり、かなりの訓練をした人間が識別できるかどうかという状況でした(図5)。そのような状況を背景にして批判をしたのが初代リック天文台長E・S・ホールデンで、世界最大の望遠鏡で観察しても運河などは発見できないと反論しました。

図5 ローウェルの描写した火星の運河

 

 そこでローウェルは肉眼による観察ではなく写真撮影する方法を研究し、一九〇五年に運河らしき形状の撮影に成功してドイツの学術雑誌に発表しました。これは世界の話題になり、その成果も反映してローウェルは『火星と運河』という書物を出版します。しかし、その写真もスケッチと同様の曖昧さがあり、一九〇九年にウイルソン山天文台の口径一五〇センチメートルの望遠鏡(図6)が撮影した写真では運河ではないことが明確になりました。

図6 ウイルソン山天文台の望遠鏡(口径150cm)

 

 ローウェルの火星についての成果は現在では完全に否定されていますが、能力を象徴する成果が存在します。天体力学が発展した結果、既知の惑星の影響のみで軌道を計算すると、実際に観測された軌道と整合しない場合があります。そこでフランスやイギリスの天文学者が既知の七個の惑星から計算し、第八の惑星の質量や軌道を予測しました。これは見事に的中し、一八四六年に予測された位置の付近で惑星が発見され海王星と名付けられました。

 それでも観測と計算結果が一致しないため、さらに外側に未知の惑星の存在が予想され、何人もの天文学者が計算し、ローウェルも挑戦します。そして一九一五年に第九の「惑星X」の軌道を予測した一〇〇ページ以上の論文を発表しました。ほぼローウェルの予測のように一九三〇年にアメリカのC・トンボーが惑星Xを発見し、冥王星と名付けました。残念ながらローウェルは論文を発表した翌年の一六年にフラグスタッフで急逝していました。

つきお よしお 1942年名古屋生まれ。1965年東京大学部工学部卒業。工学博士。名古屋大学教授、東京大学教授などを経て東京大学名誉教授。2002、03年総務省総務審議官。これまでコンピュータ・グラフィックス、人工知能、仮想現実、メディア政策などを研究。全国各地でカヌーとクロスカントリーをしながら、知床半島塾、羊蹄山麓塾、釧路湿原塾、白馬仰山塾、宮川清流塾、瀬戸内海塾などを主催し、地域の有志とともに環境保護や地域計画に取り組む。主要著書に『日本 百年の転換戦略』(講談社)、『縮小文明の展望』(東京大学出版会)、『地球共生』(講談社)、『地球の救い方』、『水の話』(遊行社)、『100年先を読む』(モラロジー研究所)、『先住民族の叡智』(遊行社)、『誰も言わなかった!本当は怖いビッグデータとサイバー戦争のカラクリ』(アスコム)、『日本が世界地図から消滅しないための戦略』(致知出版社)、『幸福実感社会への転進』(モラロジー研究所)、『転換日本 地域創成の展望』(東京大学出版会)など。最新刊は『凛々たる人生』(遊行社)。

(月刊MORGEN archive)

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