清々しき人々 第5回 交流電気を世界標準にした天才 ニコラ・テスラ(1856-1943)

多数の人々が賞賛する天才

 今年一月に資産総額で世界最高の金持になったE・マスクは電気自動車発売数で世界の首位にある企業テスラを創業した人物ですが、この社名はマスクが尊敬するテスラという人物の名前に由来します。アメリカには水素燃料電池を使用するトラックを開発しているニコラ・モーターという会社もあります。これも創業したT・ミルトンが有名な人物の名前を借用した社名ですが、両者を一体にした人物が今回紹介するニコラ・テスラです。

 二〇一〇年七月一日に首都ワシントンにあるアメリカン大学で講演をしたオバマ大統領は世界各地から流入してきた多数の移民が今日のアメリカを構築したと前置きし、科学革命を実現したA・アインシュタイン、USスチールを創業したA・カーネギー、グーグルを創業したS・ブリンなどとともにテスラを賞賛しています。一九九九年には雑誌『ライフ』による「過去一〇〇〇年で重要な功績のある世界の一〇〇人」にも選定されています。

 テニスの四大大会すべてで何度も優勝しているN・ジョコヴィッチは二〇一五年七月一〇日に「今日は絶対に忘れてはいけない偉大な人物の誕生日である。自分の希望をあきらめなかったニコラ・テスラ!」とツイートしていますが、理由はジョコヴィッチがテスラと同郷で、しかも二〇一三年には紙幣にまで印刷されるようになった偉人だからです。その同郷の国家とはバルカン半島の内陸に存在する人口約七〇〇万人のセルビアです。

歴史に翻弄されてきたセルビア

 東側のアナトリア半島、西側のイタリア半島の中間にあるバルカン半島は日本の一・八倍の面積に一〇以上の民族で構成される六〇〇〇万人が居住しており、半島に一部のみ領土を保有する国家も合計すると一二の国家が存在し、第一言語だけでも一〇種類が使用されているという複雑な地域です。この民族の坩堝といわれる地域はイスラム教国とキリスト教国が対峙する場所でもあり、古代から数多くの国家が成立しては消滅する一帯でした。

 その一国であるセルビアも現在まで複雑な歴史を経験しています。七世紀頃に現在の地域に進出し、中世にはセルビア王国が成立しましたが、一四世紀以後は約四〇〇年間、オスマン帝国に征服され独立できず、様々な国体を経由して第二次世界大戦後にユーゴスラビア連邦人民共和国の一部、一九九二年にユーゴスラビア連邦共和国の一部、二〇〇三年にセルビア・モンテネグロ連合となり、ようやく二〇〇六年にセルビア共和国として独立します。

渡米しエジソンの会社で仕事

 一八五六年にオーストリア帝国の一部であったスミリャンでセルビア正教司祭ミルーチン・テスラの家庭に次男として誕生したのがニコラ・テスラです。子供の時代から数学などに才能を発揮しており、七五年にオーストリアのグラーツ工科大学に入学し抜群の成績でしたが、父親が死亡して学費が支払えなくなったため七八年に退学、八一年にブタペストの電信会社で勤務し、さらに翌年にパリのコンチネンタル・エジソン会社に就職します。

 その時期にグラーツ工科大学で発想した誘導モーターを自力で開発しますが、ヨーロッパでは注目されなかったため、渡米を決意します。ほとんど金銭も所持せず、一八八四年六月にニューヨークに到着したテスラはエジソン電灯会社の求人広告を発見して応募したところ採用されます(図1)。当時、エジソンはニューヨーク市内に発電施設を建設し、近隣に電灯による照明のための電力を供給する事業を開始しようとしていました。

図1 エジソンの工場

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