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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

野鳥と私たちの暮らし 第4回 草本の種子食に適応した鳥 カワラヒワ

 しかし、今考えると、若い時にこの鳥を徹底的に研究したことが大変良かったと考えています。恩師から研究室を引き継いだ頃には、身近な鳥の研究はほぼ終わり、私の代になってからは研究が難しい鳥ばかりが残されました。ですが、カワラヒワの研究で鳥の本質を理解していたから、他の残された難しい鳥の研究もできたと考えています。カワラヒワの研究は、私の鳥類研究の原点でした。

人の作り出した里の開けた環境で栄える鳥

 カワラヒワは、日本が広く森で覆われていた縄文時代以前には、河川や海岸といったわずかな開けた環境に棲み、そこで得られる草の実を餌に細々と生活していたと考えられます。それが、弥生時代以後、人が作り出した里の開けた環境に移り住み、現在大いに栄えている鳥です。餌となる草の実が、水田や畑といった農耕地などで広く得られるようになり、生活できる環境が広がったからです。

 そのカワラヒワの研究からすでに50年が経ちました。この鳥は、春になると私の家に毎年やってきて、庭木に巣を造っています。今年はバラのアーチに巣を造り、現在抱卵中です。今は研究の対象としてではなく、この鳥の研究に熱中していた頃を懐かしく思いながら、彼らの子育てをそっと見守っています。

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(モルゲンWEB)

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