• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

半崎 美子さん(シンガーソングライター)

大学に進学されます

 高校の学園祭での余韻を胸の奥に残しつつも、そのときにはまだ私の心に「歌手になろう」という選択肢はなかった。だから歌とはまったく関係のない経営学部を撰んだんです。ところがいざ入ってみると、上京して歌手になりたい、という気持ちがみるみる首をもたげてきて。

ご両親の反応は

 父はとにかく猛反対で、どんなに私が涙ながらに懇願しても、決して首をたてにふることはなくて。それで仕方なく最終的には強硬突破というか……、手持ちのお金もなかったので、東京に住み込みのアルバイトを見つけると、家出同然、逃げるように北海道を発ちました。住み込み先はごく普通のパン屋さんでしたが、北海道から書類を送り、合格をもらったときには、まるで歌のオーディションに受かったような、もうそれ以上の喜びで、これで人生の一歩を踏み出せる、と、意気揚々、花の都・東京の街に乗り込みました。

そのころの暮らしは

 もう必死でしたね。週に6日働いて、食事はその日余ったパンを食べる生活。それが落ち着いたころ、ようやくデモテープを作りだした。でもそのころの私は衝動的で、計画性なんてまるでなくて。できた楽曲をつめたMDを持って、タウンページ――当時はネットはありませんから――をめくり、目をさらのようにしてレコード会社を探しては、片っ端から持ち込みを繰り返しました。

辛い現実にくじけたりは

 それが意外とないんですよ。誰ひとり知り合いのない東京で、侵入者のようにレコード会社の自動ドアをくぐり抜ける。誰に渡せばいいのかも分からないまま、とにかく通りすがる人をつかまえてデモテープを渡して……、いま振り返ると私って結構ハート強いなって思います(笑い)。でも不思議なんですが、いつもなにか自分のなかに揺るぎないものがあって、いままで一度も自分の歌を疑ったことがないんです。もちろんそれだけ手当たり次第デモテープを持って行けば、心ない言葉や厳しい批評を度々浴びます。私自身を全否定するようなことを言われたのも一度や二度じゃない。それでも、そんななかにも私の音楽を必要とする、認めてくれる人はいて――。私、どうせ同じ言葉ならそっちの方を聞くタイプなんです。

続きを読む
3 / 4

関連記事一覧