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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

清々しき人々 第21回 世界で最初に人工雪を実現した 中谷 宇吉郎(1900‐1962)

 その業績に注目した当時のアメリカ気象学会の会長ウィリアム・ハンフリースが尽力し、ベントレーが死亡する直前の一九三一年に二四五三枚の結晶の写真を収録して出版されたのが上記の書物でした(図3)。しかし写真撮影では素晴らしい技量のあったベントレーですが、掲載された写真は六角形の六方対象になっている結晶のみで、また写真を意図してトリミングするなど、科学の視点からは十分とはいえない内容でした。

図3『スノー・クリスタルズ』に掲載された写真

真冬の高山で撮影

 そこで中谷は科学の視点から雪の結晶を研究しようと決意します。暖房された研究室内では結晶が溶解してしまうので、大学の建物と建物を連絡する零下一〇度にもなる廊下に実験台や顕微鏡を設置し、上空から降下してくる雪を顕微鏡用のスライドガラスで受けて観察するという作業を繰返しました。子供時代を雪国で生活した経験が役立ったのです。その結果、ベントレーの写真以上の本物に魅了されていきます。

 翌年からは真冬になると零下一五度にもなる十勝岳中腹の山小屋「白銀荘」に滞在して観察を開始し、五年もの努力の結果、三〇〇〇枚もの結晶の写真を撮影します。雪の結晶は形状がすべて相違しており、同一のものはないと言われますが、中谷は一八種類に分類して名前を付与しますが、なぜこのように多種多様の形状が発生するのかを研究しようと決意します。そこで登場してきたのが人工で結晶を生成する研究でした。

人工雪の生成に成功

 早速、一九三五年に大学構内に零下五〇度まで室温を低下できる低温実験室を構築し実験を開始します。自然条件で雪が誕生するときは、極微の物質が核(凝結核)となって周囲に氷が付着し、次第に成長して雪の結晶になることが解明されていました。そこで中谷は木綿や羊毛の糸を核として使用しますが、期待するような結果になりませんでした。ところがウサギの毛皮の外套の毛の先端に雪の結晶ができていること気付きます。

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