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  • 過去に読書と教育の新聞「モルゲン」に掲載された記事からランダムでpickupし紹介。

野鳥と私たちの暮らし 第9回 『人の生活に密着し、したたかに生きる鷹 トビ』

 「鳶(とんび)が鷹を産む」という諺があります。この諺が端的に示すように、トビは鷹とはみなされず、鷹の中では最も低く見られてきました。その理由は、死んだ動物も食べ、群れで生活するからなのでしょう。生きた獲物を捕らえ、群れずに孤高に生きる猛禽のイメージからほど遠い生活をトビはしています。

人の生活に密着し、したたかに生きる

 長野市郊外の千曲川にトビが毎年繁殖している場所があり、2021年も同じ巣で繁殖を始めました。ここは、若い頃カッコウの研究を長年した場所です。以前のように研究目的ではなく、トビの子育てを見たいという興味から、隣の木にセンサーカメラを設置し、その様子を長期間にわたり撮影してみました。

写真3 新緑の千曲川で子育てするトビ

 ライチョウの調査と保護活動が一段落した夏にカメラを回収し、撮影された映像を見ました。他の猛禽と同様に雌雄が協力し子育てをしており、その精悍な姿は鷹そのものでした(写真3)。人の生活圏に適応することで栄え、したたかに生きる鷹という新たなトビのイメージを再確認することができました。

脚注:写真・上と2は、茨城県那珂市在住宮本奈央子氏撮影。

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(モルゲンWEB)

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