• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

室谷 義秀さん(パイロット)

一番苦労されたのはどういう部分でしょうか

 競技の面で言うと、「競技飛行」という世界には世界選手権というのがあって、強い国はすでにトレーニングのシステムが確立しているんです。専用のトレーニングの機材があって、練習に適した環境があり、コーチがいて、審判団がいる。さらに、スポンサーなどのサポート組織があったり、国の投資も手厚い。選手は競技だけに集中できるわけです。

 じゃあ僕たちはどうかと言えば、そういうサポートどころか環境の中に何の土壌もないんです。自分の前には誰もいないという世界なので、場所作りからコーチまで、ともかく一切を自分たちで1から作らなきゃいけない。だから物凄く時間がかかりました。

現在(2016年)、日本の競技人口は

 出場できる選手は15名ほどです。機体の問題で出れない人もまだ多くて、そういう人たちも含めると、大体、全部で100人ぐらいかな。まだまだ少ないので、もうちょっと子供のときからスカイスポーツを知ってもらえるようにできればと思います。

 競技までいくとなかなかハードルが高いですから、ふわりと浮く体験だとかもいいかな。そういう体験を通して幅広い層に空の世界を知ってもらう、そんな活動を続けています。10年くらいやって、エアレース、航空レースにでてくる人が出てくれば嬉しいなと。

エアレースの魅力は

 エアレースは、スポーツパイロットとして世界選手権を戦ったトップたちがレースをする訳ですが、そこのパイロットとしてのきわめて狭い範囲の中でのせめぎ合い――機材、機体、テクノロジーの戦いが面白いんです。ただ、レースそのものは単純にタイムだけを競うので、人とマシーンが力を合わせた結果がソリッドに評価されます。

 曲技飛行だとフィギアスケートみたいに審判がいて審査されるので、ほんの少しの揺らぐ瞬間があるんですが、時間は揺らがないので……。100分の1秒、1000分の1秒にシンプルにすべてが出てくるんです。それが楽しみだし、競技者としてのやりがいだと思っています。

むろや よしひで 1973年、奈良県出身。中央大学文学部卒業。93年、渡米し飛行機操縦ライセンスを取得。97年よりエアロバティックス飛行の本格訓練を開始。以降、自身のチームを率いて国内の航空ショーやレースに継続参加。2003年、航空文化啓蒙や青少年教育活動を推進するNPO法人ふくしま飛行協会を設立。09年よりレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップに参戦し、15年度成績は総合6位。また13年の世界曲技飛行選手権ではフリースタイル入賞を果たす。

トップ画像 ©Red Bull Content Pool

(月刊MORGEN archives2016)

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