「わたしのマンスリー日記」 第11回 帰郷――「われは山の子」

 私が生家の徳運寺を最後に訪れたのは2018年8月1日のことでした。その日は年1度のお施餓鬼の日でした。檀徒の皆さんが集まるので地元の地名の話をしてくれという兄からの依頼によるものでした。

 その年の2月に私は突如体調を崩し、次第に歩行が困難になり発声もできにくくなっていました。どこの病院に行っても原因がわからず、不安と恐怖のどん底にあった時期でした。その2週間ほど前の7月18日にはNHKの「日本人のおなまえっ!」のロケで、日本橋・銀座・両国・秋葉原を歩きましたが、猛暑の中立っているのがやっとといった状態でした。徳運寺での講演もやっとの思いで1時間を乗り切りました。それから5年の歳月が流れました。2019年5月にALS(筋萎縮性側索硬化症)と宣告され、それ以降手足は動かず、発声もできない日々が続いています。

 もう故郷の松本に帰ることは無理かもしれない。何度そう思ったかしれません。でもそんな私の背中を押してくれたのは、昨年(2022年)11月に岐阜市で開催されたエンジン01文化戦略会議のオープンカレッジに参加したことでした。往復900キロ、介護タクシーでストレッチャーに縛られたまま往路9時間、復路6時間の旅は確かに酷なものではありましたが、私の心は3年半ぶりの外出に踊っていました。

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