
『絵本古事記 よみがえり——イザナギとイザナミ』
寮 美千子/文 山本 じん/画
国書刊行会/刊
本体2,600円(税別)
現代によみがえる神話の深層世界
この『絵本古事記』は、古事記の深層にある神話的な心の世界、古代の感性を芸術家の直感により、今の時代によみがえらせようという試みだという。
「むかしむかし、天と地がはじまったころのことです……」
この短い文から始まる神話の背景に銀筆画の緻密で繊細、そして幻想世界が広がる。これから大地がどのように創られていくのか、その深層的な世界に心が惹かれていく。
イザナギとイザナミの深い結びつき、天地の創造、生命誕生の神秘、死の国・黄泉の国……。古代の人々は人間の営みとそれらを取り巻く世界の在りようを、イザナギとイザナミに起こる出来事や苦悩・悲哀などにイメージを重ね合わせ、深い感性で紡いで来たことに新鮮な驚きを覚える。
様々なメディアが発達している現代社会において、芸術家の手で描かれた繊細な表現は見る側の想像力を刺激する。イザナギとイザナミの表情、燃え盛る炎、流れる血潮……、一見残酷に思えるそれら表現でさえ、そこにある種の美しさを感じ取ることが出来る。言葉と絵画で紡がれる古代の世界観が、リアリティとファンタジーの世界で現代によみがえるようである。
古事記における天地の創造やイザナギとイザナミのお話は、読んだことがなくともなんとなく知っているという人も多いだろう。そういった意味でもこの作品はどんな人にも新たな示唆を与えてくれると思う。
最後の一説に
「そのお話は、またこんど。きょうのところは、これでおしまい」
という記述がある。この話の続きが出版されることを楽しみにしている。
(評・新潟市立潟東中学校 教諭 甲田 小知代)
(月刊MORGEN archive2016)