• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

小野正嗣さん(作家)

小学校時代はどんな毎日を

 小学校は1学年が18人。隙間だらけの木造の古い校舎は、風が吹くたびに海風に乗って様々の臭気が教室内に漂います。そんな匂いに釣られるように、誰かが画板を投げ捨てると受けていた美術の授業そっちのけで、次々と釣竿を肩に海へ飛び出して行った(笑い)。そういうことがまだ受け入れられる時代でしたね。

高校はどんな学生生活を

 地元の町には普通科の高校がなかったんです。一応、勉強にあまり注力しない分校があるにはあったけど、僕はそれなりに勉強をしていたので。それで他地区にある高校に通うことにした。

 毎朝、バスに乗って山道を1時間と少し揺られると、ようやく学校の校門が見えてくる。1時間に1本の運行に気をつけて通った3年間で、唯一の遅刻は、バスが故障したときの1回きりでした。高校3年次には、少し勉強に本腰を入れたいと思い、学校近くの中学時代の恩師のお兄さんのところへ下宿させてもらうことにしました。

勉強に目覚めるきっかけは

 もともと勉強はそこそこできたんです。努力すると目に見えて成果が上がるのがまず楽しかったし、それになにしろ田舎の子ですから。夏目漱石の『三四朗』などに出てくる、「地方の成績優秀な子が中央に引き立てられる」みたいな近代化の物語を本気で信じていました。これは後に研究テーマになる「カリブ海の植民地の物語にもスカラーシップ(奨学生制度)」にも登場していますね。

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