• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

朱野 帰子さん(作家)

中学校ではどんな学校生活を

 さすがに中学生の頃にはそこまで本一辺倒ではなくなってきて。でもそうすると今度は、それまで人間関係をサボってきたツケが出て来たんです。コミュニケーションをとろうにもどこか一方的というか……、つい自分の好きな本の話を延々としてしまう。そうするとすぐにみんな離れて行って。わたしが暮らした地域は昔ながらの商店街が立ち並ぶ下町のような土地柄で、通う中学校もほとんどが本よりも運動好きな生徒だった。話題が合う相手がいないんです。結局、誰ともかみ合わず、話す相手がいない苦痛の時間が続いて。中学時代はそんな暗黒の3年間でしたね。

小説家を志したのはいつごろ

 誰しも一度はアイドルや小説家に憧れるじゃないですか。それと本気で目指したときの境目が、ちょっと自分でもよくわからないですね。ただ、淡々とした学校生活の中で、唐突に「答辞にいいんじゃないか」と作文を褒められたり、塾に提出した高校受験用の小作文を、「コピーして取っておいていいか」と先生に聞かれたり。そういうことが少しずつ積み重なって、いつしか「もしかしてこの分野が得意なのかな」と思うようになった。

 でも実は、中学を卒業するときには「獣医になる」と心に決めていたんです。当時一世を風靡した少女漫画『動物のお医者さん』ですっかり心を奪われて。でも、高校1年のときに自分が致命的に数学ができないというのを思い知ったんです。それがもうホントに「クラスの落ちこぼれ」レベルに出来なくて、見かねた先生が出題趣旨を教えてくれたんだけれど、それでも平均点の半分しか取れなくて。一方で、国語は何もしなくてもある程度できるわけです。それで、泣く泣く獣医の夢を諦め、昔の早稲田一文の文芸専従――文章を専門に教えるところに入ったんですね。

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